2019年2月
1日遅れてしまいましたが、2月分の「雑感」です。
3月1日の卒業式でお話ししたことをまとめてみました。

28期生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。
今からほぼ3年前の4月12日にみなさんはこの場所で入学式を迎えました。転入してきた人もいるので全員というわけではありませんが、その日から今日まで生野学園の生徒としての日々を送ってこられました。先日ちょっと計算してみたら1054日になります。1054日という日数が長いのか短いのかは人によって感じ方は異なると思いますが、この間にみなさんは本当に変わってきたのは間違いのないことだと思います。
ちょっと3年前の自分を思い浮かべてください。多分自分で変化を実感されるのではないでしょうか?
「その当時はなんにもわかってなかった」とか「周りが全然見えてなかった」とか。「全然動けなかった」とか、逆にバタバタ動き過ぎてしまったとか…。今思い返すと恥ずかしくなるような事をしていたと思うこともあるかもしれません。

では皆さんにこのような変化をもたらしたものはいったい何だったのでしょうか?
そのことを少し考えてみたいと思います。
一つ思うのは、もし皆さんがこの3年間に決められた事を言われるままにやってきたのであればここまで変わる事はなかったのではないかという事です。普通の学校のようにもし決められたカリキュラムを効率よくこなしてきたのなら、確かに知識や技能は沢山身に付いたと思います。でもいろんなことに気づいたり、他者を受け入れるというような「人としての変化」はここまでは無かったのではないでしょうか。
生野学園はあらかじめ決められた事がすごく少ない場所です。そのためみなさんは日々生活する中で「自分がいったい何をしたいのか」を問われてきたと思います。そしてこの事こそが皆さんにとても大きな変化をもたらしたのではないかと思うのです。
皆さんはAIと人間の根本的な違いはなんだと思いますか?これは人によっていろんな意見があると思いますが、自分が思うにはAIには「何かをしたい」という欲望がないんです。AIは自分で「こんな事がしたい」とか思うわけではなく、あくまで書かれたプログラムに従って動きます。これに対し人間は「ああしたい。こうしたい」といういい意味での欲望を持った存在です。ですから自分が一体何をしたいかを自分自身に問い、そこから周りの世界と関わっていくことは人間にとって極めて本質的な事なんですね。
先程述べたように生野学園は「ああしなさい、こうしなさい」という事がない場所です。ですから皆さんは日々こうした本質的な関わりにずっと直面してきたわけです。
たぶん初めは自分が何をしたいのかわからなくて「暇だ暇だ」と言ってスタッフに構ってもらおうとしたり、いい加減飽きているのに惰性でゲームをやり続けたりすることもあったかもしれません。あるいはやりたい事は沢山あるんだけれど、どれも自分の実力がついていかず絵空事に終わってしまったこともあるかもしれません。
こうした時間は一見無駄なように見えるかもしれませんが、これは自分が何をしたいのかという切り口で「自分自身と向き合った」わけで、その意味ではとても貴重な時間だったのだと思います。それがなければ身の丈にあった自分のやりたい事は見えてこなかったと思います。
そんな中で皆さんは少しずつ自分のしたい事を実現していきました。行事に参加したり、実行委員として行事ををつくったり、クラブでやりたい事をしたり、あるいは家でゆっくり過ごしたりと自分自身で「こうしたい」という主体的な選択をされていったのだと思います。
少し難しい言葉でまとめると「自分が何をしたいのかを自分自身に問うて、そこから主体的に世界と関わっていくこと」この事こそが皆さんに大きな変化をもたらした一つの要因ではないでしょうか。

そしてもう一つ大きな事があります。それは自分のしたい事をやろうとすると、それは自分一人ではけっして完結しないということです。何かをしようと思えばそれを周りの人に受け入れてもらわなければなりません。身近な例をあげると、例えばバンドをしようと思ったらその思いを周りに伝えメンバーを集めなければなりません。寮の部屋で何かをしようとしたときに周りがうるさく集中できなければ、その子たちに文句を言う必要があるかもしれません。あるいは家でゆっくり休みたいと思えば学園に行かせようと必死になっている親にわかってもらう必要もあるでしょう。
こうした事はもし周りがお膳立てしてくれたり、制度として決まっていたらこんな面倒な事はしなくて済んだでしょう。でも皆さんは自分で思いを伝えわかってもらわなければならなかったと思います。
そして同時に周りの子もそれぞれのやりたい事を実現するために思いを伝え承認を求めてきたと思います。時としてそれぞれの思いがぶつかることもあったかもしれません。なかなか受け入れる事が出来なかったこともあったと思います。でも時間をかけてお互いに理解し受け入れていくことで初めてやりたい事を実現する事が出来たのではないでしょうか。
少し難しい言葉を使えば相互承認していくこと、これが皆さんの変化に大きな役割を果たしたのだと思います。
自分のしたいという気持ちから世界と主体的に関わり、周囲とぶつかりながらも相互に承認していくこと、まとめてしまえば短い言葉になりますが、学園で過ごした日々の中で実際にこれを体験した事は、他の場所では経験出来なかった掛け替えのない貴重な事だと思います。そのことに大いに自信を持ってください。これから先、皆さんはそれぞれの進む道を歩んでいかれますが、この経験がきっと役に立つと思います。
とはいってもこの先いろんなことを経験し、しんどいことに直面することもあるかと思います。
保護者の皆さん。そんなときは子どもたちを慈愛の目で支えていってあげてください。
最後にそのことをお願いして式辞とさせていただきます。