2019年8月
夏休み中にいくつか心配になるニュースがありました。
その一つがアマゾンでの大規模な森林火災です。これは次世代の子どもたちの生きる環境を左右する可能性があるので、今回はこの問題について考えてみようと思います。

ブラジル国立宇宙研究所の人工衛星データによると今年1月から8月21日までに7万5000件以上の森林火災が発生したとのことです。アマゾンの森林火災は毎年数万件の規模で起きているようですが、今年は特にペースが早く、昨年同時期の3万9759件を大きく上回っているそうです。
このニュースは一時期「アマゾンの森林がなくなると酸素不足になるのでは」という懸念からセンセーショナルな扱いもされましたが、森林は酸素を排出するだけでなく吸収もしているので純増分を考えれば酸素供給に及ぼす影響はそれほどでもないようです。
ですからこの点に関しては冷静に受け止めなければなりませんが、火災により大量の二酸化炭素が排出されていること、有毒な一酸化炭素が発生したり、煙による深刻な被害が出ていることは事実で、長期的な影響を考えると二酸化炭素の増加が温暖化などの地球環境に及ぼす影響が懸念されるところです。

では「実際にどれくらいの影響がでるのか」というのは意見の分かれるところです。
これまでも二酸化炭素の増加と地球温暖化の関係については様々な説が主張され、喧々諤々の議論がなされてきました。これはよって立つ前提条件の違いやシュミレーションに用いるモデルの違いによるのでしょう。
ではこうした諸説の中から「いったいどれが正しいのか」を判断するのはどうしたらよいのでしょうか? これは難しい問題です。
比較的小規模な現象であれば実験室の中で何度も実験をして確かめることが可能ですが、地球規模、宇宙規模の現象は基本的に一度限りの事象であり実験で確かめることができません。天気予報と同じで実際に結果が出て初めて正しさがわかる性質のものだからです。
ただ、影響の規模の大きさ、回復にかかる時間を考えれば、次世代の子供達のためにもある程度深刻な事態を想定した対応をするべきではないでしょうか? 深刻な事態が起きてしまってからでは間に合わないからです。

それでは今回の森林火災に対してはどのような対応が考えられるのでしょうか。

まずは火災の原因ですが、いろいろな情報によると自然発火による火災もあるようですが、多くは「小麦畑を作るためにジャングルを焼く」という人為的な「野焼き」によるもののようです。自然発火であれば協力して消火に当たるというシンプルな対応ですみますが、原因が人為的なものであることが問題を難しくしています。なぜなら現地の人たちからすれば、野焼きは自分の土地を小麦畑にして、生産した小麦を市場で売って収入を得ることを目的としたもので、それ自体は合法的、合理的な行為だからです。世界的に食肉の需要が増加し飼料用の小麦の需要も増加しているので小麦を作れば売れる見込みがあり収入が期待できることが動機になっているようです。ですからいま起きていることは全体として自らの生活を向上させようとする個々人の自由な経済活動の結果なのです。
(ただし最新のニュースによると批判を受けたブラジル政府が60日間だけ野焼きを禁止したとのことで、少なくとも今現在は合法性はなくなっているようです。)

市場で売ることを前提にものを生産をする市場経済ではこうした個人が利益を追求する自由な経済活動を前提としています。実際これが19世紀以降の経済発展の原動力となって来たことは明らかだと思います。ですから個人の利益を目的とした活動そのものを否定することは簡単ではありません。
ただ今回のアマゾンでの野焼きのように短期的、個人的には合理的な経済活動であっても、長期的、全体的な視点から見れば地球環境のような社会共有の財産を減少させてしまう危険もあるので、それを防止するためには国家や国際機関による規制が必要であることも事実です。

実はこの問題は市場経済社会が根本的に抱えている難しい問題で、自由な経済活動を最大限に認め、調整は市場に任せるべきであるという意見と、行き過ぎた経済活動は国家によって規制することが必要であるという意見の間でせめぎあいが繰り広げられてきたのです。

さらに地球環境のような多国間に関わる問題の場合、国家間の利害対立も加わるので調整は困難を極めます。
また例えば過去において大量に二酸化炭素を排出して富を築いてきた国の人が、現在発展しようとしている国の人に規制を加えようとすれば、たとえそれが必要なものであったとしても自国の行ってきた行為に対する真摯な反省抜きには受け入れられることはないでしょう。

このように考えると今回の森林火災は、野焼きをしている人や、それを容認しているブラジル政府を単純に非難することでは解決されないと思います。
歴史的な経緯を踏まえ、個人の視点、全体の視点を総合した利害調整を図る国際的な協力体制が必要になるし、危機を感じている人たちから集めた資金で、現地の人たちが野焼きをせずに済むような産業を育成していくシステムを構築していくことなども必要かもしれません。
そしてこれはアマゾンの火災の問題に限られることではなく「市場経済社会において環境問題をどう解決していくのか」というより根本的な問題につながっているように思うのです。
深刻な事態になる前にこれを解決する叡智を人類が持っていればよいのですが・・