2020年4月
3月の雑感を書いたとき、全世界で確認された新型コロナウイルス感染者は約50万人、亡くなられた方は2万3千人ほどでした。それからほぼ1ヶ月が経過した今、確認された感染者数は287万人、死亡者は20万人を超えてしまいました。
日本国内でも確認された感染者数はこの1ヶ月で10倍以上になりました。しかも感染ルート不明の割合が増加しており、PCR検査の数に限りがある現状では確認されていない感染者が相当数いることが想像されます。
この段階では感染ルートを特定して隔離していくという「クラスター対策」ではとうてい間に合わず、徹底して感染機会を減らすロックダウン的対応と、とにかく検査数を増やして感染者を特定し隔離するしか方法がありません。症状はなくても「自分自身が感染しているかもしれない」という想定のもとで「けっして人に感染させない」という意識で行動することが重要だと思います。

こうした状況の中で学校再開の目処もなかなか立ちません。
現在の休校要請は5月6日までですが、以前よりも悪化した現状での再開は難しいかもしれません。とくに寮生活を基盤とする生野学園では再開のハードルが高く、相当の長期化を覚悟しなければならないと思っています。

「寮生活ができない」というのは生野学園にとってはとても厳しい事態です。
生野学園での寮生活は「学校に付属して寮がある」といった程度のものではありません。
むしろ「学校の中に日々の生活そのものがある」と言っていいかもしれません。その生活の中で子どもたち同士、子どもたちとスタッフの関係が作られていき、様々な会話、対話を通して「こんなことがしてみたい」という気持ち、「こんなことをしたら面白いんじゃない?」といったアイデア、あるいは「こんなことをしてみない?」といった誘いかけが生まれ、それが学習、クラブ、行事といった活動につながっていくのです。
このように生野学園にとっての寮生活は文字通り学校の基盤であり、日々の活動の源泉なのです。

しかし今、私たちはその寮生活ができないという困難な事態に直面しています。
ではどうしたら良いのか?
やはり何らかの次善策を考えなければならないと思います。
その手段としてはどうしてもインターネットに頼らざるを得ないでしょう。
ただ、生野学園の場合、単に授業を動画にして配信するというだけでは不十分です。なぜならそれだけでは生野学園にとって最も重要な「生活」の部分を補えないからです。日々の生活の中で出来ていた「会話」「相談」「誘掛け」といったことを不十分ではあっても補っていくことを目指すべきだと思います。幸いIT技術の進化は目を見張るべきものがあり、話題になっているオンライン会議室のようなリアルタイムで複数人が会話できるサービスもあります。画面を通しての会話は、直接の会話と比べればかなり情報量が落ちるとは思いますが、それでも相手の表情を見ながら会話できるのは大きいと思います。実際の運用にあたっては子どもたち一人ひとりが利用できるネット環境を考慮する必要がありますが、スタッフの知恵を合わせて何とかこの方向を模索していこうと思います。
一方で生野学園の学習の「一人ひとりの課題を自分のペースで進めていける」という特色を考えると、リアルタイムでの会話に加えていつでも自分のペースで観られる動画の配信もやはり必要でしょう。スタッフとして伝えたいこと、学んでほしいことなど、それぞれの個性を生かした動画を作成できないかと思っています。 生活の中で日々子どもたちと接することを中心にしていた生野学園のスタッフにとって、慣れないことばかりで、うまくいかないこともあるとは思いますが、試行錯誤していくつもりです。

このようにネットを介した関わり、学習を進めていくことはとても重要ですが、こんな状況であればこそ、生野学園の生徒に限らず、子どもたちに伝えたいことがあります。
以下は子どもたちに向けたメッセージです。

みなさんにとって今一番重要な学習とは、新型コロナウィルスをめぐって世界で起きていることを自分の目にしっかりと焼き付け、それについてしっかり考えてみることです。
人類はかつて経験したことのない事態に直面しています。その中で、さまざまな人たちが、どのように考え、どんな行動をして、どんな結果になったのか、なぜそうなったのか? 世界は以前と比べてどう変化していくのか? そして自分自身の生き方をどうしていくのか? こうしたことを考えることこそが、今を生きるみなさんにとっての最大の学習だと思うのです。

そのためには幅広い情報に触れることが必要です。地上波テレビのワイドショーからの情報だけではぜんぜん足りません。海外のメディア、Webサイトも観てみましょう。「英語は無理!」という人も多いと思いますが、同時通訳付きのTV放送もあるし、今の自動翻訳はかなり使えます。 こうして得た情報から自分なりの判断をしてください。でもその判断が偏っていないかのチェックも必要です。そのためには家の人と話してみたり、Webでいろんな人と会話するのも良いでしょう。自分が気づかなかったことを教えてもらえるかもしれません。

混乱した状況では根拠を持った判断や行動がとても重要です。
根拠を持った批判は重要ですが、根拠なく誰かを攻撃したり、対立を煽ることはやめるべきです。残念ながら世間には感染してしまった人や医療従事者を攻撃したり、明らかに非科学的なデマを流したり、一部の人を悪者にして対立を煽っている人もいます。みなさんは決してこうした人たちに同調しないでください。

困難な状況では助け合うことが重要です。
これは決してキレイゴトではありません。困難な時は余裕のある人に助けてもらい、余裕ができたら困難な人を助ける、これは全体が生き延びるためのあたりまえの戦略なのです。
支給される10万円の使い道もこの視点から考えてみてください。

コロナウィルスとのたたかいがどれくらい続くのか、今の時点ではわかりません。「ワクチンができれば」という希望的観測もありますが、それがいつになるのか? そもそも可能なのか? それもわかりません。そうした状況では行動制限によって当面の爆発的拡大を阻止できたとしても、気を緩めれば再び拡大する危険があります。それを避けるためにはかなりの期間、何らかの行動制限が必要になるでしょう。みなさんもこれまでの行動パターンを変えざるを得なくなるでしょう。また世界の経済に及ぼすダメージも大きくその影響も受けることになります。
そんな中で、一体何ができるのか? どんな生き方をしていったらいいのか? それを考え、議論していくことが今のみなさんの課題であると思っています。