寮生活の思い出
夏休み中の今回は「思い出話」、自分自身の寮体験についてお話してみようと思います。
自分の寮生活は大学時代の話で、かれこれ40年も前のこと。記憶が正確かどうかは自信がありませが、しばしお付き合いください。

自分が入った寮は年齢制限がなく、下は18歳の新入生から上は30近い「長老」と呼ばれる博士課程の学生まで100名程が共同生活をしていました。部屋は2人部屋で半年に一回全員によるくじ引きで部屋替えをしていたので、年齢や学部のまったく違うも者どうしが同室になるのが普通でした。
入寮してまず驚いたのは寮の運営のほとんどが学生自身によって行われていたことでした。
寮生の募集、選考からはじまって寮費の徴収、大学や取引業者への支払い、備品の管理、電話や来客への対応などすべてが寮生によって行われていたのです。
運営は2年生を中心とする「寮委員会」が担当していました。寮委員の任期は4ヶ月、1年を3期に分けて分担し、寮生は最低1回は寮委員になることが義務づけられていました。

この寮委員会の役割について少し細かくなりますが説明しておきます。
寮委員会は委員長1名、副委員長1名、総務1名、会計委員2名、炊事委員2名、生活委員2名の9名で構成され、だれがどの委員を担当するかは2年生全員の話し合いで決定していました。

委員長は寮の運営方針について各委員、寮生の意見をまとめ、(後述する)寮生総会に諮って承認をえたり、対外的な交渉の中心になる文字どおりリーダー的な役割を担います。
副委員長は委員長の補佐にプラスして、寮生の親睦をはかる行事の企画、運営などの役割もあるので社交性のある人材が選ばれていました。
総務は備品の管理、補充などの雑務一般を担います。毎晩、寮内を回って戸締をし、異常がないか点検するのも総務の役割です。
会計委員は寮費の計算、徴収、大学や業者への支払いを行いますが、寮費は食事の回数によって一人ひとり異なるので100人分をそれぞれ計算する必要がありました。また期の終わりには収支決算を2種類の算出法で計算し報告する義務があり、少しでも不明なお金があった場合は何度もチェックし直す必要がありました。
炊事委員は献立の作成、業者への食材の発注を行います(調理は大学が雇用している調理師さんが担当していました)。安い食材を探し、限られた食費でなるべく美味しいものを提供するのが炊事委員の腕の見せ所でした。
生活委員は寮生の便宜を図るために日常品、インスタント食品、菓子類などを自室で販売します。販売方法は寮生がチェックシートに記入して持っていく無人販売なので店番の必要はありませんが、商品の発注、支払い、生活費(寮費とは別)の徴収も行います。厳密な収支報告の義務は会計委員と同様です。

自分は1年の3期に総務、2年の3期に生活委員を担当しました。
経験や知識の少ない大学1,2年生には分からないことも多くありましたが、上級生の経験者からのアドバイスや協力を得てなんとかこなすことが出来たと思います。

このように寮運営は寮委員によって担われますが、その運営方針は「寮生総会」という会議による承認が必要でした。
寮生総会は寮の最高決定機関で寮生全員の出席が義務づけられており、特別な事情でやむを得ず欠席する場合には全寮生に向けた釈明文を提示する必要がありました。
寮生総会は年に3回、夜9時から行われましたが、真剣に議論、検討がなされ長引くときは明け方まで続くこともありました。自分が在寮していたときは暖房費の負担の割合をめぐって大学との交渉が続いており、その方針をめぐって喧々諤々の議論がなされました。それでも最後は全員が納得して、委員長の掛け声のもと「寮歌」を斉唱して総会を終わるのが常でした。
余談ですが、当時の大学側の交渉相手の一人が2月の雑感で紹介させていただいた山折哲雄さんだったのは懐かしい思い出です。

このような寮運営の背景には「自分たちのことは自分たち自身でで決定し、決めたことは責任をもって運営していく」という考えと、それを可能にするノウハウの蓄積がありました。それは長い時間をかけて少しづつ形成されてきた寮の「文化」のようなもので、それが寮生たちに共有されていたように思います。

自分たちで寮を管理運営をすることは正直言って負担も多く大変なことではあります。
でもその分、当時の寮には「外部から管理されない」まったく自由な雰囲気がありました。また寮生には「自分たちで運営している」という自負と仲間意識があったように思います。

そんな寮はすごく面白い場所でした。
実際100人も学生がいると本当にいろんなやつがいて、それぞれが自由闊達に交流しあっていました。「長老」の話を聞いて納得したり反発したり、年齢の近い者どうしで夜遅くまで遊んだり、議論したり、学部や学科の異なるものが話しをする中でお互い刺激しあい視野を広げることも多くありました。そして正直無茶なこともだいぶしていたと思います。
でも今にして思えば寮という「生活の場」が同時に「学びの場」でもあって、以前お話した「否認知スキル」も含めてたくさんのことを学んだように思います。

そして自分自身が寮で様々な体験をしたことが、生野学園という全寮制の学校で仕事をしていることの遠因になっているような気がするのです。
生野学園の高校寮にも「寮委員会」があって、寮がみんなにとって住みやすい環境になるように活動しています。大学生のようにすべてを自分たちでというわけにはいきませんが、少しでも「自分たちで決め、自分たちで運営する」ことの重要性と面白さを経験してもらえたらと思っています。

最後になりますが、残念なことに今の大学の寮は「寮」とはいっても大学が経営するアパートのようなものが増えて、自分が経験したような自主運営の寮はほとんど無くなってしまいました。
そんな中で貴重な伝統を守る京都大学の吉田寮が廃寮の危機に瀕しています。施設の老朽化などの問題はあるとは思いますが、廃寮にしてしまったら100年以上の月日をかけて培われてきた「文化」は二度と戻りません。
ぜひ存続してほしいものです。
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