「川の授業」について
今年度は一年間(とは言ってもコロナによる休校明けの6月末からですが)毎週月曜日の午後に「川」という授業をしてみました。
授業といっても特に課題などがあるわけではなく、学園の近くの通称「三角岩」と言われる場所に、参加したい子どもたちを連れて行って、川遊びをするだけの「授業」です。
暑い間はほとんどの子が泳いだり、「三角岩」から飛び込んだりしていましたが、だんだん水が冷たく感じられるようになると、遊びの中心は釣りに変わっていきました。この辺りで釣れるのはカワムツ、オイカワ、ムギツク、鯉などです。釣りが好きで自分の道具を持っている子もいれば、まったくの未経験で学園の道具を借りる子もいて、それぞれが思い思いの場所で釣りをします。
水温が比較的高かった10月ぐらいまでは水生昆虫の羽化もあり、魚は比較的浅い場所に居て活性も高く、餌を投げ入れればすぐに食いついてくれるので、初心者でも簡単に楽しめます。
ところが水温の低下とともに魚たちは深い場所に移動して行くので、よく観察して魚のいる場所を見つけ、底にいる魚の目の前に餌を沈めないと釣れなくなり「腕」の差が出るようになります。なかなか釣れない子は上手い子に教えてもらたりしながら、チャレンジしていました。
それでも12月まではなんとか釣れていたのですが、1月になってさらに水温が下がると、魚はさらに深い場所の岩の下に潜り込んでしまったのか、どこを探しても魚が見つかりません。ちょっと試してダメとわかると、河原で焚き火をして暖まる時間が多くなりました。
こうなると火に当たっているだけではさびしいので、事前にソーセージなどを準備して、河原に生えている笹に刺して焼いて食べたりするようになりました。
2月後半になるとだいぶ暖かくなり「これなら魚が出てくるかな」と期待する日もありましたが、一度引っ込んだ魚はすぐには出てこないようで、3学期の終わりまでついに魚の姿を見つけられませんでした。

「川」の授業はこんな流れで進んでいったのです。
これまでも同じ場所にはちょくちょく行っていましたが、定期的に通っていたわけではありません。今回のように週に1回と決めて、定期的に同じ場所に行くと、少しずつ変化していく自然の様子が見られ、新鮮で面白い経験をすることができました。
今は「いつになったら魚が出てくるか」が楽しみで、子どもたちのいない春休み中も時々川を覗きに行っています。(ちなみに先日行った時は小さな魚の姿は確認できました。)

この「川の授業」をしようと思ったのは、実は自分自身が川遊びばかりしてきたことが背景にあります。 そこで、少し自分の「川遍歴」を紹介しおきます。

小学校高学年の時、当時は東京に住んでいたので、小田急線で多摩川に友達と釣りに行ったのが川遊びの始まりでした。その後、だんだん遠く、神奈川県の酒匂川あたりまで行くようになりました。祖父に伊豆の川に釣れて行ってもらい初めてアマゴを釣ったのもたしかこの頃でした。
中学になると開高健の本に影響されてルアーやフライの釣りをするようになりました。行動範囲も広がり、夜行列車を使ったり、夏休みや春休みにはテント持参で、河原で友人たちとキャンプもするようになりました。
高校生になると、釣りよりもスリルのある沢登りが楽しくなり、奥多摩や丹沢の沢で滝を攀じ登るようになります。高2の夏には友人と北アルプスの沢登りにチャレンジしましたが、今思うとかなり無謀なことをしていたと思います。
大学時代にも引き続き山形の朝日連峰や岩手の早池峰山の川で、かなり危険な沢登をしていたと思います。
仕事をするようになってからは、かねてからの憧れだったカヌー(カヤック)を購入して川下りを始め、主に茨城県の那珂川に出かけていました。一方で遠ざかっていた釣りも再開し「テンカラ」というシンプルな日本式の毛針づりを始めました。こちらは新潟や長野の川によく通いましたが、この頃は仕事が終わってから車で高速を飛ばし深夜に現地に着くという強行軍でした。
30半ばで学園に来てからも、釣りの好きな子と「川釣りクラブ」をしたり、個人的には県北の岸田川によく通っていました。
そして40半ばになると、何故かもう一度フライフィッシングがしたくなってきて、久しぶりに再開して現在に至っています。

このように自分は川にまつわる遊びばっかりをしていたのですが、その根底にはとにかく「川が楽しい」ということがあったと思います。(今もですが)
海はあまりに膨大で計り知れず、どこか「手に負えない」という印象があります。それに比べると、川も十分に手強いのですが、頑張ればなんとか全体像を掴み、太刀打ちできそうな気もするのです。
そんな中で、やりたいこと、例えば「魚が釣りたい」「滝を登りたい」「のんびり川を下りたい」といったことを試行錯誤しながら自力で実現していくのがとても面白かったのです。
川で遊んでいると、予期せぬことにしばしば遭遇し、たくさんの失敗もしましたが、結果としていろんなことを学び、技を身につけてきたという実感を持っています。
そんな自分の経験があるので、今の学園の子どもたちにも、ぜひ川で遊ぶ機会を提供したいと思ったわけです。

カヌーイストで作家の野田知佑さんは「川の学校」という本を出されています。
その中で野田さんは、子どもたちは、川で思いっきり楽しく遊ぶことで、たくましく育っていくと言われ、実際に自らが校長になって「川の学校」というたくさんの「川ガキ」が育つ場所を提供されています。
そして、そこでは大人が何かを教えようとするのではなく、大人も一緒に楽しめばいい。そうすれば、子どもたち自身が川からいろんなことを学んでいくと言われています。
傾聴に値する言葉だと思います。
確かに川には子どもたちを育てる不思議な力があるし、そこには「主体的で深い学び」を実現していくためのヒントがあるように思うのです。
野田さんのように本格的なことはできませんが、自分の「川の授業」でも、ささやかながら「川ガキ」が育つ場所を提供できたらと思います。
来年度も「川の授業」を継続していくつもりです。
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