石窯のこと
生野学園には写真のような石窯があります。
これは2002年に中学を開校したときに「記念になるものをみんなで作りたい」という思いから作成したものです。中学開校にあたっては何か新鮮な取り組みをやってみたいという気持ちが強く、この石窯以外にも畑を作って蕎麦を育て、自分たちで蕎麦打ちをして食べようというプロジェクトも企画するなど、いろいろなことにチャレンジしました。
ただ、いづれも全くの白紙状態からのスタートだったのでうまくいくわけはなく、実際は試行錯誤の繰り返しでした。今回はそんな石窯づくりの「失敗談」をお話しようと思います。
始めにしたのは石窯関係の書籍やネットなどから情報を集めることでした。情報は結構あって、多くの方が様々な大きさ、様々な形態の石窯を作成されていることがわかりました。そうした中から自分たちの目的に近いものをピックアップして参考にするのですが「どうせ作るのならなるべく多目的に使えるものを」という思いが湧いてきます。パンを焼くならバケットやカンパーニュのような大型のものも焼けるようにしたい。パンやピザだけでなく鶏の丸焼きとか焼き芋とかもできるようにしたい。できれば温め直しができる構造にしたいなど、どんどんハードルが高くなっていきます。そんな中でなんとかたどり着いたのが、アーチ型で奥行きは1m、高さは46cm、上下2層式で下段で火を焚くことで冷えてきた窯を温め直すことができる、というものでした。
形状が決まり、基礎工事、屋根づくりまでは順調に進みました。鉄製の扉なども鉄工所で働いておられる近所の方に相談したところ快く作成してもらえることになりました。

最初につまづいたのは焼床の問題でした。上下2層にすると下からの支えがないので耐火煉瓦をならべて焼床を作ることは不可能です。そこで鉄製の焼床を使うことにしました。これは実際に開業されているパン屋さんの石窯でも使われていたので採用することにしたのです。そこで先述の地元の方に無理を言って1cm厚の鉄板を切ってもらいました。ところが実験してみると1cmくらいの厚さだと加熱したときにソリがでてしまうことがわかりました。パン屋さんの石窯の焼床は3cmくらいあるようなのですが、そんな厚さは規格外で値段も跳ね上がってしまうことのことで、鉄の焼床は諦めざるを得ませんでした。幸いアーチを組む前に実験したので、作り直しはせずにすみましたが、計画変更は余儀なくされました。
いろいろ調べた結果、焼床はアサヒキャスターという耐火セメントで作ることにし、コンパネで型枠を作り、セメントを流し込んで厚さ6cmくらいの焼床を作成しました。これはけっこううまく出来たので、焼床だけでなく入口部分や煙突の開口部も煉瓦ではなく耐火セメントで作ってしまうことにしました。

この後はアーチ型の木枠に沿ってレンガを積んでいく地道な作業を繰り返し、11月の学園祭前には一応は完成したのです。
試しに焼いたピザは、びっくりするほど早く焼け、美味しかった記憶があります。

そして学園祭ではバターロールと焼き芋を焼くことになりました。
大量のパンを焼くのはかなり苦労しましたが、なんとかうまく焼けて好評でした。ところが予熱で焼き芋を焼いているときに、ふと見るとアーチを支える側面の部分に亀裂が入っているのです。どうも採用したアーチの形状だと側面の部分に横への力が強く働いてしまい、それを支えきれずに亀裂が生じたようなのです。このまま亀裂が拡大して行けば崩壊する恐れもあり、補修でどうにかなるレベルではなさそうです。

結果は一からの作り直し。すべてを一旦解体するハメになりました。

レンガを買い足して土台と側面の部分を強化し、アーチの形状は横に力がかからないように半円形に修正して作り直しです。
そんな作業を学園祭終了後から始めたので、アーチを組むころには真冬になり、厳寒の中で子どもたちは長い作業には耐えられず、一人で黙々と作業をすることが多くなりました。自分の設計ミスなので仕方がないことではあったのですが・・。

そんなわけで今のかたちになるまでにはほぼ1年がかかったのです。
当初はようやく完成した嬉しさもあり念願だったバケットやカンパーニュを焼いてみたり、鳥の丸焼きなどにもチャレンジしました。ところが次第にピザ以外の目的で石窯を使うことは減っていったのです。

その理由は石窯の温度管理が想像以上に難しかったことにあります。
石窯というのは最初に内部で火を焚いて高温にし、火を消した後の予熱で調理するものなのですが、温度の下がり具合は外気温にも影響されるのでなかなか温度管理が難しいのです。
例えば大型のパンであればだいたい390度くらいから焼き始めます。ところが火を落とした段階で500度くらいあった温度が、390度まで下がるのにどれぐらい時間がかかるのかを読みにくいのです。そのため適温になった頃にはパンの発酵が進みすぎてペチャとしたパンになったり、逆に発酵が終わったときには温度が下がりすぎていて生焼けになってしまうということが起こります。
プロのパン屋さんのように毎日使って経験を積んでいけば勘が働くようになり使いこなせるのかもしれませんが、素人がたまに使って成功する確率はかなり低いのです。そのため中学の活動などでパンを焼くときは無難なオーブンをつかうことのほうが多くなっていったと思います。

これに対しピザは窯の内部に少し火を残した高温で焼くので温度管理が簡単です。発酵も一次発酵だけなので、予め生地を作り冷蔵庫で発酵を抑えておいて焼く直前に整形することができます。こうした点がパンに比べると随分と楽で、素人でもソコソコのレベルのものが作れるのです。そのため石窯を使うとなるとどうしても「まずはピザから」という話になるのです。

こうして作成した石窯は、ほぼピザ窯として機能することになっていきました。

ところがこの石窯はピザ窯としては問題のある形状をしています。
大きめのパンを焼くために天井をアーチ型にしたので上からの熱が弱い、煙突は後方に配置したので内部に火を残したときに対流がおこらない、開口部が大きすぎて熱が逃げやすい等々。多目的を目指して設計したことが弱点になっているのです。

そんなわけで実は以前から機会があればもう一度、今度は潔くピザに特化した窯を作ってみたいという思いがありました。でも、なかなか実現に踏み切れないまま20年の月日が流れていったのです。
昨年あたりから、さすがにそろそろ作らないと出来ないままで終わってしまうかもと思い、まずは3Dグラフィックをつかってバーチャルでピザ窯を作ってみました。それが下の写真です。
形状は熱効率を重視したドーム型、天井は最高部で46cm、煙突は開口部の上方、開口部の高さは天井高の約半分、今の石窯の弱点をすべて払拭した設計にしてみました。

そして今年度になりようやく高校生の子を誘って実物のピザ窯の制作を開始しました。
週一回木曜日の午後だけの活動なので制作は本当にゆっくりのペースです。一学期は基礎工事で終了。学園祭前には一ヶ月中断したこともあって、最近ようやく焼床と木枠が出来て、やっとこれからレンガ積みに入る段階です。完成まではまだしばらくかかりそうだし、予期せぬトラブルもあるかもしれません。でも思い描いていたものが少しづつ実体化していくことには何かワクワクするものを感じています。
完成のあかつきにはこのサイトで報告させていただこうと思っています。
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