不登校の増加について
10月31日に文部科学省から「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導の諸課題に関する調査結果」が発表されました。この調査は毎年全国の国公私立の小学校、中学校、高等学校すべてを対象に行われているものです。これによると令和5年度の不登校児童生徒数は小学校が130,370人、中学校が216,112人で、合計は346,482人です。
令和5年度が299,048人で「不登校30万人時代」と騒がれたことは記憶に新しいことですが、そこから更に4万7千人あまり増加したことになります。
実は不登校児童生徒数は平成10年から平成25年までの間は若干の減少も含め、ほぼ横ばいで推移してきたのです。ところが平成25年に上昇に転じて以降、11年連続で増加し数はほぼ3倍になっています。増加率は若干下がってきているようですが、すぐに減少に転ずることは考えにくくしばらくは増加をつづけるのではないでしょうか。
当然その「原因」が気になるところですが、その考察をする前にもう少しこの調査結果を詳しく見ておきたいと思います。
この調査は単に数だけでなく、教師からみた児童生徒の状況についても細かく報告する項目があります。たとえば「不登校児童生徒について把握した事実」という項目では不登校の子の状況について14の選択肢をチェックすることになっており、これを見ると不登校の原因・きっかけをある程度類推することが出来ます。
今回の調査結果で比較的割合の大きかった選択肢を上げると、
「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」が32.2%
「不安・抑うつの相談があった」23.4%
「生活リズムの不調に関する相談があった」23.0%
「学業の不振や頻繁な宿題の未提出があった」15.2%
「いじめ被害を除く友人関係をめぐる問題の情報や相談があった」13.3%
「親子の関わり方に関する問題の情報や相談があった」12.4%
といったところです。
(合計が100%を超えるのは複数選択可のためです。)
意外に少ないのは
「教職員との関係をめぐる問題の情報や相談があった」3.0%
「いじめの被害の情報や相談があった」1.3%
ですが、この調査はあくまで「教員が把握した」状況ですから、教師に「見えていないところ」がある可能性は高いと思います。実際、今年の3月に発表された「文部科学省委託事業 不登校の要因分析に関する調査研究」では「いじめ被害」を原因に上げたのが、教員は4.2%に対し生徒は26.2%、「教職員とのトラブル、叱責等」では教員が2.0%に対し16.7%となっています。
このように教員と生徒の間で乖離が見られる項目もありますが、いずれの調査においても割合が大きいのは「やる気がでない」「不安、抑うつがある」、「生活リズムの不調」「学業不振」「友人関係の問題」「親子関係」といったところであることは確かです。
次に不登校児童生徒数が増加する前の平成24年度の報告資料を見てみると、
「無気力」25.9%
「不安など情緒的混乱」26.6%
「友人関係」14.8%
「学業の不振」9.1%
「親子関係」11.1%
となっています。
(平成24年調査に「生活リズム」の選択肢はなし)
これを見ると、若干の比率の変動はあるものの、主だったところは大きくは変わっておらず、当時も今も不登校の子どもたちは、少なくとも教師から見た限りにおいては、同じ問題や悩みを抱えていたと推察されます。
ということは直面している問題や悩みそのものが大きく変わったわけではないなけれど、一方で不登校の子どもたちは端的に増加しているということになります。
これをどう解釈したらよいのでしょうか?
ひとつ考えられるのは次のような仮説です。
不登校増加前にも同じような問題、悩みを抱えている児童生徒はいた。ただ、そうした子どもたちの中には「学校に行かなければ」という気持ちから「頑張って」登校を続けていた一定の層があった。ところが何らかの理由で、こうした層に属している子どもたちの「頑張り」が効かなくなったり、「頑張ろうとする気持ち」が薄れ、登校出来ない(しない)ようになり、それが不登校の増加となった。つまり不登校に至る「しきい値」が低下したことが増加の原因ではないかという考えです。
では「何らかの理由」とはなんでしょうか?
それには2つのことが考えられます。
一つは学校そのものの魅力が薄れ、子どもたち、親たちに「無理してまで学校に行く必要はない」という考えが広がってきた「学校離れ」という現象です。これについては以前、2023年4月の校長雑感でふれさせていただきましたが、今も確実に不登校への「しきい値」を下げる要因になっていると感じています。
もう一つは子どもたちの力の低下です。これは今に始まったことではないので近年の不登校増加の直接的な原因ではないのかもしれません。ただ変化の底流をなすものとして影響を与えているように思います。長年、子どもたちと関わってきた実感として、以前に比べると何らかの問題に直面したときに「自分で考えて解決していく力」はだいぶ低下しているように感じています。成長の過程で人との深い関係を経験せず、どこか表面的なところで「流して」きてしまった結果、そうした力が身についていないのです。そのため学校での様々な人間関係の問題を解決していこうとすると「頑張り」が効かず、投げ出してしまい登校ができなくるのです。この力の低下も不登校への「しきい値」を下げる要因になっていると思います。
ではさらに子どもたちの力の低下の原因は? ということになると社会全体の問題になり話が大きくなりすぎるので、ここでは学校の問題に絞って言及しておきます。
これまでもこの雑感でお話してきたことですが、やはり知識偏重の教育の中で、失敗も含めた様々な体験をさせていないため、自分で考えて問題を解決していく力が身につかないことが大きいと思います。決められたことをこなすのではなく、自分たちでやることを決め、自分たちで考えていく経験を積まなければこうした力はつかないと思います。
また、学校での集団の中で自分が周りから浮いてしまうことを恐れ、表面的に周りに合わせていくスキルばかりを身に付けてしまう傾向があることも大きな問題だと思います。表面的な対応で対処できなくなったときにそれを解決する力が育っていないのです。
こうした状況の中で、学校が単に知識を身につける場所ではなく、様々な問題に粘り強く立ち向かい、自分の感情を律しながら仲間と協調して解決していく力、いわゆる「非認知能力」も獲得していける場所になることが重要になってきています。生野学園が目指しているのもこの方向であり、他にも様々な実践例があるようですので、もっと多くの学校がこの方向に向かっていけば、学校という場所が魅力を取り戻し、子どもたちも「ちょっと無理をしてでも通いたい」と思えるようになり、結果として不登校が減少していくのではないでしょうか。
令和5年度が299,048人で「不登校30万人時代」と騒がれたことは記憶に新しいことですが、そこから更に4万7千人あまり増加したことになります。
実は不登校児童生徒数は平成10年から平成25年までの間は若干の減少も含め、ほぼ横ばいで推移してきたのです。ところが平成25年に上昇に転じて以降、11年連続で増加し数はほぼ3倍になっています。増加率は若干下がってきているようですが、すぐに減少に転ずることは考えにくくしばらくは増加をつづけるのではないでしょうか。
当然その「原因」が気になるところですが、その考察をする前にもう少しこの調査結果を詳しく見ておきたいと思います。
この調査は単に数だけでなく、教師からみた児童生徒の状況についても細かく報告する項目があります。たとえば「不登校児童生徒について把握した事実」という項目では不登校の子の状況について14の選択肢をチェックすることになっており、これを見ると不登校の原因・きっかけをある程度類推することが出来ます。
今回の調査結果で比較的割合の大きかった選択肢を上げると、
「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」が32.2%
「不安・抑うつの相談があった」23.4%
「生活リズムの不調に関する相談があった」23.0%
「学業の不振や頻繁な宿題の未提出があった」15.2%
「いじめ被害を除く友人関係をめぐる問題の情報や相談があった」13.3%
「親子の関わり方に関する問題の情報や相談があった」12.4%
といったところです。
(合計が100%を超えるのは複数選択可のためです。)
意外に少ないのは
「教職員との関係をめぐる問題の情報や相談があった」3.0%
「いじめの被害の情報や相談があった」1.3%
ですが、この調査はあくまで「教員が把握した」状況ですから、教師に「見えていないところ」がある可能性は高いと思います。実際、今年の3月に発表された「文部科学省委託事業 不登校の要因分析に関する調査研究」では「いじめ被害」を原因に上げたのが、教員は4.2%に対し生徒は26.2%、「教職員とのトラブル、叱責等」では教員が2.0%に対し16.7%となっています。
このように教員と生徒の間で乖離が見られる項目もありますが、いずれの調査においても割合が大きいのは「やる気がでない」「不安、抑うつがある」、「生活リズムの不調」「学業不振」「友人関係の問題」「親子関係」といったところであることは確かです。
次に不登校児童生徒数が増加する前の平成24年度の報告資料を見てみると、
「無気力」25.9%
「不安など情緒的混乱」26.6%
「友人関係」14.8%
「学業の不振」9.1%
「親子関係」11.1%
となっています。
(平成24年調査に「生活リズム」の選択肢はなし)
これを見ると、若干の比率の変動はあるものの、主だったところは大きくは変わっておらず、当時も今も不登校の子どもたちは、少なくとも教師から見た限りにおいては、同じ問題や悩みを抱えていたと推察されます。
ということは直面している問題や悩みそのものが大きく変わったわけではないなけれど、一方で不登校の子どもたちは端的に増加しているということになります。
これをどう解釈したらよいのでしょうか?
ひとつ考えられるのは次のような仮説です。
不登校増加前にも同じような問題、悩みを抱えている児童生徒はいた。ただ、そうした子どもたちの中には「学校に行かなければ」という気持ちから「頑張って」登校を続けていた一定の層があった。ところが何らかの理由で、こうした層に属している子どもたちの「頑張り」が効かなくなったり、「頑張ろうとする気持ち」が薄れ、登校出来ない(しない)ようになり、それが不登校の増加となった。つまり不登校に至る「しきい値」が低下したことが増加の原因ではないかという考えです。
では「何らかの理由」とはなんでしょうか?
それには2つのことが考えられます。
一つは学校そのものの魅力が薄れ、子どもたち、親たちに「無理してまで学校に行く必要はない」という考えが広がってきた「学校離れ」という現象です。これについては以前、2023年4月の校長雑感でふれさせていただきましたが、今も確実に不登校への「しきい値」を下げる要因になっていると感じています。
もう一つは子どもたちの力の低下です。これは今に始まったことではないので近年の不登校増加の直接的な原因ではないのかもしれません。ただ変化の底流をなすものとして影響を与えているように思います。長年、子どもたちと関わってきた実感として、以前に比べると何らかの問題に直面したときに「自分で考えて解決していく力」はだいぶ低下しているように感じています。成長の過程で人との深い関係を経験せず、どこか表面的なところで「流して」きてしまった結果、そうした力が身についていないのです。そのため学校での様々な人間関係の問題を解決していこうとすると「頑張り」が効かず、投げ出してしまい登校ができなくるのです。この力の低下も不登校への「しきい値」を下げる要因になっていると思います。
ではさらに子どもたちの力の低下の原因は? ということになると社会全体の問題になり話が大きくなりすぎるので、ここでは学校の問題に絞って言及しておきます。
これまでもこの雑感でお話してきたことですが、やはり知識偏重の教育の中で、失敗も含めた様々な体験をさせていないため、自分で考えて問題を解決していく力が身につかないことが大きいと思います。決められたことをこなすのではなく、自分たちでやることを決め、自分たちで考えていく経験を積まなければこうした力はつかないと思います。
また、学校での集団の中で自分が周りから浮いてしまうことを恐れ、表面的に周りに合わせていくスキルばかりを身に付けてしまう傾向があることも大きな問題だと思います。表面的な対応で対処できなくなったときにそれを解決する力が育っていないのです。
こうした状況の中で、学校が単に知識を身につける場所ではなく、様々な問題に粘り強く立ち向かい、自分の感情を律しながら仲間と協調して解決していく力、いわゆる「非認知能力」も獲得していける場所になることが重要になってきています。生野学園が目指しているのもこの方向であり、他にも様々な実践例があるようですので、もっと多くの学校がこの方向に向かっていけば、学校という場所が魅力を取り戻し、子どもたちも「ちょっと無理をしてでも通いたい」と思えるようになり、結果として不登校が減少していくのではないでしょうか。