「格差」の問題を考える
これからの日本の教育について懸念していることがあります。
それは「格差」の問題です。

日本ではこの30年ほどの間で所得の格差が拡大してきたと言われています。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると1985年に12%だった相対的貧困率(注)が2015年では15.6%まで上がっています。これはOECD(経済協力開発機構)に加盟している35カ国の中で6番目に高い数値になります。
原因としては非正規雇用の増大にともなう中間層の崩壊などが指摘されています。
また今年5月に通商産業省の次官と若手有志がまとめた「不安な個人、立ちすくむ国家」というレポートによれば日本の母子家庭の貧困率は50%を超え、世界でも突出して高い数値になっているそうです。

所得格差に対しては様々な立場や見方があって、「社会保障などの再配分を考えれば格差が拡大しているとは言えない」という意見や「相対的貧困率はあくまで国の中の基準に対するもので、世界にはもっと貧しい人たちが多くおり、日本はまだ恵まれている」という考え方もあります。

ただ教育の観点からみると、親の収入により受けられる教育に差が生じ、結果として貧困が世襲・固定化されてしまうことは避けるべきだと思います。貧困家庭に生まれた子どもが貧困から抜け出せない社会からは希望が失われ、放置すれば無用の対立が生まれていくのではないでしょうか。こうした懸念は前述の「不安な個人、立ちすくむ国家」でも指摘されています。

しかし現状では世帯ごとの教育費はほぼ年収に比例しており教育の格差ははっきりと生じてしまっています。

こういうことを言うと「公立に比べて授業料の高い私立学校の校長が言うことか?」という批判を受けそうです。たしかにそれはその通りで、現状では子どもを私立の学校に通わせるためにはある程度以上の収入が必要なのは否めません。
ただ少しだけ言い訳をさせてもらうと生野学園には独自の奨学金制度があり、国の就学支援金や各自治体の授業料軽減制度・奨学金を併用すればある程度は授業料を軽減することが可能です。
でもこれだけでは決して十分ではなく、理想を言えば教育費は私立も含めて全額が無償になるべきだと思っています。

「財源を考えると無理なのでは?」という声が聞こえて来そうですが、OECD加盟国の中には大学まで含めた授業料を無償化している国が13カ国もあるし、返還の必要のない給付型奨学金制度は(受給率はまちまちですが)ほとんどの国にあります。

要は教育に対する考え方の問題だと思います。
「教育費は教育の恩恵を受ける個人が負担すべきである」という考えにたつのか「子どもたちは社会全体で育てるものであり負担は社会全体で負うべきだ」という考えに立つのか、その違いなのです。
前者の立場では教育はあくまでサービスなのであって、高いお金を払えばより良いサービスを受けられるのは当然であるという事になります。わかりやすくはありますが、前述した貧困の連鎖などの諸問題は避けられません。

後者の立場にたてば社会が存続、発展していくためには次世代の担い手を育成する必要があり、それは直接の養育者だけでなく社会の構成員全体で担うべきだという事になります。そのためには社会的な合意が必要になります。

近年の日本では前者の考え方が強かったようで、教育機関への公的支出の国内総生産に占める割合は2014年で3.2%で、OECD加盟国34カ国の中で最下位になっています。

ただ最近になって政府もようやく重い腰を上げ、私立高校も含めた授業料無償化や大学での給付型奨学金の検討していく姿勢を示していますが、残念ながらまだまだ具体的な実現方法などの議論は進んでいないようです。

これからの日本は確実に少子高齢化が進んでいきます。
またAIの進化に伴い労働形態も相当に変わってくると思います。
さらに日本の置かれた国際的な状況も変化していくはずです。
そんな中では日本社会が存続していくためにはやはり「人」を育てていくことが最も重要なのではないでしょうか?

そのためにはやはり「子どもたちは社会全体で育てていく」という合意を形成し、教育費の軽減、無償化を実現していく必要があると思うのです。
自治体の運営する安定し広く開かれた公立学校と、様々な建学の精神のもとに作られた多様な特色を持った私立学校、これらを合わせた「広い意味での公教育」のなかから自由に学校を選ぶことが出来、さらに深く学びたいものは誰でも給付型の奨学金を得て大学などの高等教育を受けることが出来る、そんな状況がいち早く実現することを願っています。

ではその「広い意味での公教育」ではどんな教育を目指すべきなのかという問題が残りますが、それはまたの機会したいと思います。

注 相対貧困率とは
等価可処分所得 = 世帯の可処分所得の合計 ÷ 世帯の人数の平方根 とし、
相対的貧困率 = 等価可処分所得が全人口の中央値の半分よりも低いの割合 と定義する。
2015年の場合、等価可処分所得の中央値が245万円となるので、122.5万円以下の人が貧困とされる。
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