情報リテラシーのことなど
子どもたちと話をしていて少し危惧することがあります。それは話の中で示される子どもたちの知識が不正確であったり、断片的なものであったりすることです。明確な統計データがあるわけではないので、これはあくまで自分の受けた印象に過ぎないのですが、以前に比べるとこうした傾向が増加しているのではないかという気がするのです。そしてそうした知識の出どころを聞くと、Youtubeなどのネット情報であることが多く、これも明確な根拠があるわけではないのですが、そうしたネット上にあふれる膨大で雑多な情報に触れていることもその原因の一部になっているのではという気もするのです。

昔のように情報を提供するメディアがテレビやラジオ、新聞などに限られていれば、一部には間違った情報があったとしても、ある程度は真偽をチェックする機能が働き、怪しげな情報が垂れ流しになることは少なかったのではと思います。もっともそうしたチェック機能は「情報を流す以上はきちんと裏取りをする」というメディアを担う人たちの倫理感や責任感に依拠するという脆弱性を抱えたものではあり、もしメディアが権力によって統制されてしまえば逆に情報操作に利用され、意図的に嘘の情報を流される危険性もあるのは確かです。それでも一部の時代、場所を除けば、それなりに正確性は確保されてきたのではないでしょうか。

これに対し、今のネットのように誰でもが発信者になりうる状況では、情報の真偽のチェックはもっぱらそれを受け取る側に委ねられていると言っていいでしょう。
こうした状況の危険性、特に成長段階にある子どもたちに対する危険性はすでに十分認識されており、それ故に「ファクトチェック」や「情報リテラシー」の重要性が指摘されているのだと思います。
しかし、その効果が十分に上がっているかについては疑問があります。

例えば客観的判断が出来てファクトチェック可能な情報はネット上の膨大な情報の中のほんの一部に過ぎずません。他の多くは客観的な判断を下すためのデータが不足していたり、意見、仮説、予想といった(この文章も含め)そもそもファクトチェックの対象にならなかったりする情報なのです。そしてあくまで個人の意見・見解に過ぎないものであっても、その発信者に親近感を持っていたり、信奉したりしていればそのまま鵜呑みにして「事実」と思い込んでしまうケースも多くあるように思います。ですからファクトチェックはもちろん重要なのですが、それだけでは全く不十分だという認識をもつ必要があります。

また子どもたち一人ひとりがしっかりとした情報リテラシーを身につけるということは相当に困難で時間のかかることだと思っています。情報機器を使って情報を取得・発信する方法という「狭い意味での情報リテラシー」であれば身につけるべき能力ははっきりしており、すでに身につけている子どもたちも多くいます。これに対し取得した情報を吟味して真偽をチェックするといったことも含めた「広い意味での情報リテラシー」となると、必要とする力は全く別物になります。
客観的データが揃っており真偽の判断がつけやすい情報であれば、きちんと論理的に考える力があれば大丈夫でしょう。それはある意味「解き方の決まった数学の問題」を解くようなものです。しかしもう少し判断の難しい「微妙な」情報になるとそうはいきません。あらゆる可能性を想定する柔軟な思考力、他の多くデータと比較して考察する総合的な判断力、そして自分の先入観や特定の価値観が判断に影響を及ぼしていないかを吟味する慎重な姿勢なども必要になるでしょう。さらには仮にこうした力を身につけたとしても真偽を判断しにくい情報は依然として残るのだということも理解しておく必要もあります。
ですからしっかりとした情報リテラシーを身につけることは簡単ではありません。そしてそれを効率的に習得していける学習プログラムのようなものも、少なくとも今のどころは存在していないように思います。たぶんその実現は今の日本の学校教育そのものの変革が必要なくらい難しいことなのではないでしょうか?

ということは、当面はしっかりとした情報リテラシーを身につけていない多くの子どもたち、大人たちがネット上の膨大な玉石混交の情報に接する状況が続き、周りから見れば間違っていると思われる情報を信じてしまうことも頻繁におきていくでしょう。
そうであれば喫緊の課題は、間違っていると思われる情報を信じている子どもたちの知識を訂正していくことになります。それには子どもたちとの会話の中で間違った知識を見つけたら、その都度訂正していくという地道な作業が必要ですが、他に方法はないと思います。

そしてこの場合も、情報の真偽が比較的はっきりしていて、簡単な指摘で「あっそうなんだ」と納得してくれるケースもあれば、間違いを指摘するのに慎重で丁寧な説明が必要で時間がかかるケースもあると思います。気をつけなければならないのは頭ごなしに否定すれば、反発から頑なに指摘を受け入れないことも考えられるということです。一方通行的に指摘するだけではなく、相手の考えもしっかり聞きく中で、正しいと思っている自分の知識も改めて検証していく「対話」の中で双方が納得できる一致点を探っていくという姿勢が重要になると思います。
案外、こうした試行錯誤の中でこそ情報リテラシーは身についていくのかもしれません。
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