教師不足について
今月は「教師不足」の問題について考えてみます。

少し古いものですが文部科学省の「『教師不足』に関する実態調査」という資料があります。
これは2021年の始業日と5月1日時点での公立学校の「教師不足」を調査したものです。この資料の具体的な数値の紹介に入る前に、まず文科省の「教師不足の定義」を確認しておこうと思います。
というのは「教師が何に対して不足しているのか」の「何」の部分を明確にしておかないと、誤解が生じる恐れがあるからです。

「教師不足」の文科省の定義は次のようになっています。
「臨時的任用教員等の講師が確保できず、実際に学校に配置されている教師の数が、各都道府県・指定都市等の教育委員会において学校に配置することとしている教師の数(配当数)を満たしておらず欠員が生じる状態を指す」

つまり文科省の定義では各都道府県・指定都市の教育委員会が決めた配当数が「何」に相当するわけです。
じつは日本の公立小中学校の教員定数は「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数に関する法律」(通称 義務標準法)で機械的に算出されます。そしてこれにかかる費用の3分の1は国が負担する仕組みになっています。ただ、これはあくまでベースであって、実際にはこの教員数では難しいこともあり、各自治体が状況に合わせて、それぞれの予算でより多くの教師を配置することが許されています。つまり義務標準法での教員定数と教育委員会で定める配当数には乖離があるわけです。
ですから「義務標準法の定員を基準とすれば教師不足など存在しない」という主張も一応は可能です。しかし、各自治体はそれぞれの状況から必要と思われる教員数を決めているわけですから、こちらを基準とする文科省の定義は理にかなっていると思います。ちょっとややこしい話ですが、もしかすると背景には予算を少しでも抑えようとする財務省と、なんとか教員数を増やす手段を確保したい文科省との確執があるのかもしれません。

さて、以上の前提を踏まえて資料を見ていくと、ほとんどの都道府県・指定都市で教師の欠員が生じていることがわかります。合計すると2021年5月1日時点で小学校が979人、中学校が722人になります。欠員数は地域によりまちまちですが、数字が大きいのは、小学校では千葉県91人、福岡県69人、埼玉県67人、大阪府60人、中学校では福岡県59人、兵庫県57人、茨城県55人、大阪府50人などでしょうか。また欠員率でいうと島根県の小学校1.46%、熊本県の中学1.77%などが目を引きます。逆に欠員が0なのは小学校で10地域、中学校で12地域にとどまります。
ただ、この調査は3年前のものなのでとうぜん最新の状況が気になります。
残念ながら文科省の最新の調査はまだ発表されいませんが、全日本教職員組合が今年5月時点の調査を実施し、発表しています。これによると小学校の欠員が1732人、中学が1244人となっています。調査の主体と調査方法が異なるので単純に比較するわけにはいきませんが、少なくとも改善が進んでいる印象はありません。

では実際に欠員が生じた学校ではどのように対応しているのでしょうか?
様々なアンケートや報道によると、「担任教師がおらず、教頭が代わりに担当に入った」「2クラス合同の授業を実施した」「欠員教師の分の授業は他の教師で負担せざるを得ない」など、現場では相当にきびしい対応を迫られているようです。いずれにせよ子どもたちの教育環境にとって良くない状況であることは明らかです。

つぎに教師不足の原因についてみていきます。
先程の文科省の調査で各教育委員会に行ったアンケート結果では、当初の見込みよりも必要な教師の数が増えたことが挙げられ、その理由として主に次の3つが指摘されています。

1つ目は産休・育休取得者の増加です。
これは、たぶんこれまでなら出産ギリギリまで働かざるを得なかったり、女性にばかり負担を押し付けたりしていた状況が、少子化対策などの流れで少しずつ改善されてきたことによるもので、歓迎こそされ制限されるべきものではないでしょう。ですから今後もこの流れは続き、むしろそれに対する対応をしっかり取っていくべきだと思います。

2つ目は特別支援学級の増加です。
特別支援学級の1クラスあたりの人数は8人が基準なので、必要な教師数もとうぜん多くなります。そして近年、発達障害と診断される子どもの数が急激に増加し、特別支援学級に在籍する子が増えてきたことで学級数が増加しています。
世界では障害を持った子も含め、多様な子どもたちが一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」が主流になりつつある中で、日本はそれに逆行している状況です。本来であれば日本もこうした流れに参加していくべきだとは思いますが、そのためには、ようやく35人へ移行しつつあるクラス少人数化を更に押し進めなければならないし、教師や保護者の意識も変えていかなければならないので、当面は特別支援学級が減ることは無いと思います。

3つ目は病気による休職者の増加です。
これは端的に教師の過重労働によるものだと思います。日本の教師は課される業務があまりに多く、長時間の残業や自宅での持ち帰り仕事などをを余儀なくされ、本来の授業研究や子どもたちへの関わりなどが十分に出来ていない状況にあります。こうしたことから心身ともに疲れ果ててしまい休職、退職に至る教師が多くなっているのです。
このままでは、教師という職業の魅力は失われていくばかりです。
そして、後述するようにこのことこそが教師不足の最大の原因になっているのではないかと思っています。

以上の3点は「教師の欠員が増加している理由」ではありますが、実はより深刻で根本的な問題は「それへの補充が効かないこと」にあります。

実際に教員の欠員が生じた場合は、教育委員会に「講師登録」している人の中から臨時講師を採用することになります。この「講師登録」というのは、もし空きがあれば教師として働く意思がある人が登録しておくもので、例えば教員採用試験には落ちたけど教員志望は諦めていない人、退職後も講師として働きたい人などが登録しています。いわば教師の予備群なのです。
教師という職業に魅力があり人気が高ければとうぜん予備群も豊富になっていくはずですが、残念ながら講師登録者が減少しているのが現状です。そして、それが補充が効かない原因なのです。

ですから教師不足の一番の問題は教師という職業の魅力が薄れていることであり、逆に魅力を取り戻すことが出来れば補充はいくらでも効くはずです。
そして、教師という職業が魅力を取り戻すためには、いち早く教師の業務内容を見直すことが必要だと思います。とにかく膨大な雑務を無くし、本来の授業研究に当てる時間を増やし、いろいろと工夫した授業を実施することで子どもたちと深く、創造的な関わりが出来るようにしていくこと、それを可能とする学校の体制を築いていくことが必要だと思います。それ無しに、新指導要領の「主体的、対話的で深い学び」は実現するはずはありません。

最後に少し生野学園の宣伝をしておきます。
生野学園ではスタッフ(教師ではなくスタッフと呼びます)の最大の役割は子どもたちと関わることですので、余計な雑務は極力無くしています。そしてあらかじめ決められたことをするのではなく、子どもたちとともに自分で考え、話し合いながら動きを作っていく場所です。子どもたちだけでなく、スタッフにとっても自由で面白い場所なのです。
自分自身も初めて見学に来たとき「ここは面白そうだな」と直感しました。それまで高校の非常勤講師の経験はありましたが、どうも職員室の雰囲気に馴染めず正規教員にはなる気が起きず予備校で講師をしていたのですが「ここだったら自分で考えていろいろ面白いことが出来そうだ」と感じたのです。それが生野学園に来ることに決めた一番の理由でした。そして実際に十分に楽しんできたと思っています。

生野学園では今、国語と理科ののスタッフを募集しています。自分でいろいろと考えて子どもたちと関わり、子どもたちの成長を手伝っていく仕事に興味のある方にぜひ来ていただければと思っています。
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