新型コロナウイルス感染予防対策について思うこと
3月の雑感からずっと新型コロナウイルスの話になっています。
そろそろ他の話も・・とは思うのですが、今月もやはりこの話題に触れないわけにはいかないようです。
世界での感染者はついに1000万人、死者は50万人を超えてしまいました。これを見ると世界規模での感染拡大はまだまだは収まる気配がありません。
一方で日本を含む東アジアでは死者数が他の地域に比べて明らかに少ないという現象が起きています。この原因は一体どこにあるのか? 様々な説があるようですが、どれも未だ科学的な検証はなされていません。新型コロナウイルスに関しては未だわからないことが多いようです。
ワクチンの開発も世界中で急がれています。しかし、すぐに実用化というのは困難でしょう。
そうなると当面はこのウイルスとの戦いを続けていかなければなりませんが、経済活動の制限をずっと続けていくわけにも行かないので、適度に緩めることも必要になります。しかし最近の首都圏での感染増加のように、緩めればまだまだこのウイルスは息を吹き返してくるようです。しばらくは前進後退を繰り返しなが爆発的感染をなんとか抑え込んでいくしかないのかもしれません。
そんな中で生野学園では6月に入ってからの感染者減少、とくに市中感染がかなり減ったことを受けて寮生活の再開を決め、6月末から子どもたちが戻り始めました。ただ年度末の部屋替えも出来ていない状態でしたので、一度に全員が帰ってくるのは難しく、7月1週までに段階的に子どもたちが戻って来る予定です。
寮生活の再開にあたって「どうしたら新型コロナウイルスの感染を防ぎ安全に生活することができるか」をスタッフで話し合い、いろいろ準備をした上で「再開に向けてのガイドライン」を作り、それを子どもたちと保護者の皆さんに伝えました。
ガイドラインではいろいろと守ってほしいことを示していますが、何より重要なのは「なぜそうするのか」を一人ひとりに理解してもらうことだと思っています。安全な寮生活を送るためには一人ひとりが意識して行動することが必要であり、もしこれを「押し付けられたルール」のようにとらえられてしまったらそれは不可能だと思うからです。
そして例えば「食堂の使い方」のように特に注意が必要で全体に関わることについては予めスタッフが決めたことを必ず守って欲しいと伝えていますが、クラブや委員会などのように参加者が限られ活動の形態も様々なものについては「どうしたら安全にできるか」を生徒とスタッフで話し合いながら決めていってほしいと思っています。
物事に対処していくアプローチのひとつに「あらゆる可能性を想定して、その一つ一つにどう対処するかを細かく決めておく」というものがあります。じっさい役所などの官僚的な仕事では驚くほど細かく事態が想定されていて対応も細かくマニュアル化されていることがありますが、生野学園での感染予防対策にこの方法を使うのは限界があると思います。生活の様々な場面を細かく想定したら膨大な量になりとても覚えきれるものではありませんし、日々の生活のなかではたぶん想定外のこともおこるでしょう。
こうした場合に有効なのは「守るべき原則をハッキリさせた上で、あらかじめ細かい対応を決めておくのではなく、個々の場面でその原則を貫徹するためにはどうしたらいいのかを考えていく」というアプローチです。今回の生野学園での感染予防対策でも細かい部分はこの方法をとることで柔軟な対応が出来ると思っています。
ただ日本の学校という組織では伝統的にこのアプローチはあまり取られていません。
だいぶ前に熱中症対策のお話をしたときにもふれたのですが、日本の学校では上意下達的な傾向が強く、現場で「これはおかしいな」と思ってもそのまま従ってしまうことが多く、結果として適切でない対応になってしまうことがあるのです。
ですから現場で原則を守った対応が出来ればそれに越したことはありません。
問題はそれを実現ためには「対応する人がしっかりとした判断力を身につけていることが必要である」ということです。
理想を言えば生野学園でも生徒、スタッフの一人ひとりがしっかりした判断力を身に着けて、その場その場で適切な対応が出来ることなのですが、現実には生徒、スタッフも含め私たちの「判断力」はまだまだ未熟です。
ですから現時点で「現場で判断する」というアプローチを増やしていくことには限界があり、実際にはいろいろな場面を想定したマニュアル的なものと併用していくことが必要でしょう。
ただ目標としてはやはり「一人ひとりが判断力を身に付けていくこと」を目指すべきだと思っています。なぜならこれから先さらに「想定外」の事態に直面した場合、そうした「判断力」が必ず必要になるからです。 そして、その判断力を身につけるためには、まずスタッフ自身がみずからの「判断力」を深めるために互いに研鑽していくことが必要でしょう。
その上で、子どもたちに対してはその発達段階に応じた対応をすることを心がけなければなりません。というのは子どもたちの判断力はその発達の過程で徐々に付いてくるもので一律の対応はできないからです。
こうした対応はとても難しいのですが、そんなときの一つの指針になるのがロシアの心理学者ヴィゴツキーの「発達の最接近領域」という考え方だと思っています。
「発達の最接近領域」というのは簡単に言うと「今はまだ1人では出来ないけれど、周りの大人たちが少し手助けしてあげれば出来るようになる領域」のことです。ヴィゴツキーは子どもたちのこうした領域を見つけ大人が目的意識的に関わっていくことの重要さを指摘しています。
判断力の場合であれば「今はまだ1人では適切な判断が出来ないけれど、ちょっとしたアドバイスをしてあげれば適切な判断が出来るようになること」になります。
新型コロナウイルスとのたたかいのなかでは子どもたちが「どうすればいいのか」悩むことも多くあると思います。そんなときにスタッフや親御さんが適切なアドバイスをすることで、子どもたち自身が自分で適切な判断をしていけるようにすることが重要だと思っています。
そろそろ他の話も・・とは思うのですが、今月もやはりこの話題に触れないわけにはいかないようです。
世界での感染者はついに1000万人、死者は50万人を超えてしまいました。これを見ると世界規模での感染拡大はまだまだは収まる気配がありません。
一方で日本を含む東アジアでは死者数が他の地域に比べて明らかに少ないという現象が起きています。この原因は一体どこにあるのか? 様々な説があるようですが、どれも未だ科学的な検証はなされていません。新型コロナウイルスに関しては未だわからないことが多いようです。
ワクチンの開発も世界中で急がれています。しかし、すぐに実用化というのは困難でしょう。
そうなると当面はこのウイルスとの戦いを続けていかなければなりませんが、経済活動の制限をずっと続けていくわけにも行かないので、適度に緩めることも必要になります。しかし最近の首都圏での感染増加のように、緩めればまだまだこのウイルスは息を吹き返してくるようです。しばらくは前進後退を繰り返しなが爆発的感染をなんとか抑え込んでいくしかないのかもしれません。
そんな中で生野学園では6月に入ってからの感染者減少、とくに市中感染がかなり減ったことを受けて寮生活の再開を決め、6月末から子どもたちが戻り始めました。ただ年度末の部屋替えも出来ていない状態でしたので、一度に全員が帰ってくるのは難しく、7月1週までに段階的に子どもたちが戻って来る予定です。
寮生活の再開にあたって「どうしたら新型コロナウイルスの感染を防ぎ安全に生活することができるか」をスタッフで話し合い、いろいろ準備をした上で「再開に向けてのガイドライン」を作り、それを子どもたちと保護者の皆さんに伝えました。
ガイドラインではいろいろと守ってほしいことを示していますが、何より重要なのは「なぜそうするのか」を一人ひとりに理解してもらうことだと思っています。安全な寮生活を送るためには一人ひとりが意識して行動することが必要であり、もしこれを「押し付けられたルール」のようにとらえられてしまったらそれは不可能だと思うからです。
そして例えば「食堂の使い方」のように特に注意が必要で全体に関わることについては予めスタッフが決めたことを必ず守って欲しいと伝えていますが、クラブや委員会などのように参加者が限られ活動の形態も様々なものについては「どうしたら安全にできるか」を生徒とスタッフで話し合いながら決めていってほしいと思っています。
物事に対処していくアプローチのひとつに「あらゆる可能性を想定して、その一つ一つにどう対処するかを細かく決めておく」というものがあります。じっさい役所などの官僚的な仕事では驚くほど細かく事態が想定されていて対応も細かくマニュアル化されていることがありますが、生野学園での感染予防対策にこの方法を使うのは限界があると思います。生活の様々な場面を細かく想定したら膨大な量になりとても覚えきれるものではありませんし、日々の生活のなかではたぶん想定外のこともおこるでしょう。
こうした場合に有効なのは「守るべき原則をハッキリさせた上で、あらかじめ細かい対応を決めておくのではなく、個々の場面でその原則を貫徹するためにはどうしたらいいのかを考えていく」というアプローチです。今回の生野学園での感染予防対策でも細かい部分はこの方法をとることで柔軟な対応が出来ると思っています。
ただ日本の学校という組織では伝統的にこのアプローチはあまり取られていません。
だいぶ前に熱中症対策のお話をしたときにもふれたのですが、日本の学校では上意下達的な傾向が強く、現場で「これはおかしいな」と思ってもそのまま従ってしまうことが多く、結果として適切でない対応になってしまうことがあるのです。
ですから現場で原則を守った対応が出来ればそれに越したことはありません。
問題はそれを実現ためには「対応する人がしっかりとした判断力を身につけていることが必要である」ということです。
理想を言えば生野学園でも生徒、スタッフの一人ひとりがしっかりした判断力を身に着けて、その場その場で適切な対応が出来ることなのですが、現実には生徒、スタッフも含め私たちの「判断力」はまだまだ未熟です。
ですから現時点で「現場で判断する」というアプローチを増やしていくことには限界があり、実際にはいろいろな場面を想定したマニュアル的なものと併用していくことが必要でしょう。
ただ目標としてはやはり「一人ひとりが判断力を身に付けていくこと」を目指すべきだと思っています。なぜならこれから先さらに「想定外」の事態に直面した場合、そうした「判断力」が必ず必要になるからです。 そして、その判断力を身につけるためには、まずスタッフ自身がみずからの「判断力」を深めるために互いに研鑽していくことが必要でしょう。
その上で、子どもたちに対してはその発達段階に応じた対応をすることを心がけなければなりません。というのは子どもたちの判断力はその発達の過程で徐々に付いてくるもので一律の対応はできないからです。
こうした対応はとても難しいのですが、そんなときの一つの指針になるのがロシアの心理学者ヴィゴツキーの「発達の最接近領域」という考え方だと思っています。
「発達の最接近領域」というのは簡単に言うと「今はまだ1人では出来ないけれど、周りの大人たちが少し手助けしてあげれば出来るようになる領域」のことです。ヴィゴツキーは子どもたちのこうした領域を見つけ大人が目的意識的に関わっていくことの重要さを指摘しています。
判断力の場合であれば「今はまだ1人では適切な判断が出来ないけれど、ちょっとしたアドバイスをしてあげれば適切な判断が出来るようになること」になります。
新型コロナウイルスとのたたかいのなかでは子どもたちが「どうすればいいのか」悩むことも多くあると思います。そんなときにスタッフや親御さんが適切なアドバイスをすることで、子どもたち自身が自分で適切な判断をしていけるようにすることが重要だと思っています。