トップダウン型組織の弊害について
暑い日が続きます。
そんな中で7月17日に愛知県で小学校1年生の子どもが野外授業の後に熱中症で亡くなられるという痛ましい事件が起きてしまいました。教育に関わるものとして身につまされる思いがします。
「高温下での野外授業を中止するなどの措置は出来なかったのか」等、学校の対応を問題にする指摘は数多くなされているのでここで繰り返すことはしません。

ただこの事の背景には「日本の教育現場では決められたことをいかにスムースに実行するかという意識はあっても、現場の判断で決められたことを変更するという意識はほとんど無い」ということがあるのではと思います。これはあくまで想像ですが、今回の場合も「野外授業を中止する」という選択肢は考えられなかったのではないでしょうか。

日本の学校組織、特に公立の学校は基本的にトップダウン型で、現場は決められたことに従って動きます。もし現場に判断を任せる場合でも「こういう場合はこうしなさい」という細かなマニュアル・判断基準が与えられています。今回の件でも二日後には文部科学省は緊急の通達を出しており、今後さらに細かい実施基準が作られるのではないでしょうか。
そして現場の教員にとっても「上で決めてくれたほうが楽」という面もあります。確かに判断を任されてミスをした場合に非難されるのではたまったものではないでしょう。
もし教育現場で臨機応変できめ細やかな対応をしていこうとすれば、しっかりとした判断ができる人材を増やし、もし問題が起きた場合には管理者がきちんと責任をとるという体制が必要になりますが、その実現は簡単なことではないと思います。

なぜなら日本の学校組織は一朝一夕で出来たものではありません。
明治以降、西欧に比して遅れてスタートした日本の産業は、組織の中で決められたことをきちんとこなしていく優秀な労働力を必要とし、それに応える形で作られてきたのが日本の学校教育です。それは決められた内容を効率良く一斉に教育していくことを主眼としたもので、学校組織もそれに見合ったトップダウン型のものとして形成されてきたのです。第二次大戦後には様々な改革がありましたが大きなところでは、その性格は維持されてきたと思います。

実際こうした学校組織のもとで生み出された「粒のそろった優秀な労働力」を基盤として日本の産業は成功を収めました。20世紀後半には「ジャパンアズナンバーワン」ともてはやされ、いくつかの産業ではアメリカを追い越すまでに至ったのです。
しかしその後、日本経済は失速し「失われた20年、30年」と言われる時期を迎えています。

この原因については様々な見方があると思いますが、大きなところでは産業構造の変化が大きいのではないでしょうか。簡単に言えば「工場型からIT型への変化」です。
この変化により、日本の教育が得意とする「組織の中で決められたことをきちんとこなす人材」よりも「自分で考え判断することの出来る人材」が求められるようになりました。

もちろん日本の教育行政、経済界もこのことは重々承知していて対応策を出しています。
ただその対応策はどうしても「付け焼き刃」的な印象をぬぐえないのです。
最近もあいかわらずトップダウンで「アクティブラーニングを取り入れなさい」とか「小学校からプログラミングを教えなさい」といった指示をしてくるのですが、これではただでさえ多忙な教員の負担を増やし疲弊させる結果になりかねません。

本気で対応を考えるならば、組織の見直しも含めた抜本的な変化が必要ではないでしょうか。
そしてそろそろ「有用な人材を育てる」という発想を捨てる時期に来ているのではないかとも思います。明治以降の西欧へのキャッチアップ過程では手っ取り早い「人材育成」は確かに有効でした。でもこれからはもっと深いところでの「文化」の違いが浮き彫りになってくるのではないかと思います。

そこで問題になるのは「均質を求める村社会的な文化」から「個を大切にする市民社会の文化」へ移行できるかということです。とても難しく時間もかかることではありますが、もし日本の「ガラパゴス化」をよしとしないのであれば、この移行は必須となるでしょう。

そうなると教育の目標も「個の違いを認め、だれもが生きやすい社会を形成していく人」を育てていくことにシフトすべきかと思います。しかもそれを「スローガン的なきれい事」として「教える」のではなく「他者の違いを認め尊重することが自分自身の生きやすさにつながる」という叡知を身に付けてもらうことが重要になると思います。
それに伴い学校組織も全国一律から地方自治体や学校現場に多くをゆだね、違い認めていくべきでしょう。
その場合これまで特徴のある教育をしてきた「私学」の果たしうる役割は大きいのではと思っています。
困難で時間のかかることですが、もしこの移行が達成できたとしたら、結果として「個性的で有用な人材」も多く育ってくるのではないでしょうか。
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