卒業式でお話したこと
卒業生の皆さんにお話したことをまとめました。

式辞

3年生の皆さんご卒業おめでとうございます。
そしてお母さん、お父さん、ご家族の皆さんおめでとうございます。

じつは3年前の入学式で皆さんに2つのことをお伝えしました。
一つは、まずは学園を安心できる居場所にしてほしいということでした。もうひとつは学園の制約がなく自由な環境で思いっきり自分のやりたいことをしてほしいということでした。
ところがちょうど2年前の29期の卒業式の日にコロナで全国の学校に休校要請が出されたことをお伝えしなければならなくなり学園も長い休校に入りました。その後は手探りでオンラインの対応をしたりしながら、寮生活が再開できたのは1学期の終わりでした。ただ再開はされてもそれまで出来ていたいろんなことが出来なくなったり制限されたりと、思うようにならないことも多かったのではと思います。
でもそんな中にあっても皆さんはいろいろと手探りで、考えたり、悩んだりしながら多くのことを成し遂げてきたと思います。
大きなところでは体育祭や学園祭、修学旅行、そして先週行われた卒展・卒業ライブ、どれも当初は開催すら危ぶまれる中で、皆さんは「どうやったら実現できるのか」を必死で考えながら、いろんな意見を出し合い、それをまとめ、以前と比べても遜色のないものに仕上げていきました。本当に見事だったと思います。

自分は時々「自由」とは何かを考えてみることがあります。自由というのはともすると「制限がなく、何をしてもいいこと」と捉えられがちです。でもそれだけでは真の自由にはならないと思います。いくら制限のない環境が与えられても、自分自身で主体的に考えたり選択したりすることなく、ただ習慣的、惰性的に動いていたのではほんとうの意味で自由であるとは言えないのではないか。逆に制限があって出来ることが限られていても、その中で出来ることを模索し自分が何をしたいのかを心の中心に問い、主体的に選択していくことができるなら、それこそが自由であると言えるのではないでしょうか。
コロナ禍でいろいろな制約はありましたが、みんさんはその意味での自由を経験をされてきたのだと思います。

そして、そうした経験は先ほどお話した体育祭や学園祭などの目に見える成果のあった場面に限らず、日常の様々な場面でも経験されたと思いますし、あるいは悩んだ末にあえてそういった行事などに参加しないという選択をされた人もあるかと思いますが、それも意味のある主体的な決断だったのかと思います。また、あえて学園ではなく家でしっかりと自分自身と向き合うという選択をされ意味のある時間を過ごしてきた方もおられるのではないでしょうか。
要は一人ひとり形はちがっても、自分自身で考え、自分自身の気持ちを大切にして、自分自身を生きるということこそが大切だったのではと思います。

でもそれはけっこう大変なことだったのではないかと思います。
自分のやりたいことを実現しようと思えば、周りの人に自分の気持を伝えなければならないし、人の考えを聞き、話し合って意見をまとめていくことも必要になります。また力をつけるために長く地道な努力を必要としたこともあったのではないかと思います。
ある意味それは大変でめんどくさいことであったのかもしれません。でもそうしたことを避けることなくしっかりと向き合ってきたからこそ、皆さんは本当の意味での「活きる力」を身につけ見違えるほどたくましくなってきたのだと思います。

今日は皆さんに和歌を一首紹介しようと思っています。
皆さんは幕末の長州、今の山口県で活躍した高杉晋作という人を知ってますか?
明治維新を実現する上で画期的な役割を担った人ですが、高杉晋作自身は明治維新を迎える前に若くして病気で亡くなっています。その高杉晋作が亡くなる前に詠んだ辞世の句を紹介します。

それは「面白きこともなき世を面白く生きなすものは心なりけり」という歌です。
ただ後半の「生きなすものは心なりけり」の部分は高杉晋作本人が詠んだものではなく、看病していた望東尼という人が付け加えたものだと言われています。ですから高杉晋作本人が詠んだのは上の句の「面白きこともなき世を面白く」という部分だけになります。
この「面白きこともなき世」というのは江戸時代の身分制度のもとで、分をわきまえ突出するこなく、慣習に従って生きることが尊ばれた社会のことではないかと思います。この歌にはそんな面白くない世の中にあっても、自分は自分自身の本当にやりたいこと、自分自身が本当に作りたい平等な社会を実現するために自ら考え、突出を恐れずに精一杯面白く生きてきたんだという高杉晋作の自負と感慨のようなものが感じられます。

高杉晋作の生きた時代は江戸の末期でしたが、いま自分たちが生きている世の中に目を向けてみると、身近なところではたぶんコロナとの戦いはまだまだ終わらず、いろいろ制約されることも続くような気がします。
もう少し広いところを考えると、日本では経済的な停滞が長引いたり国際的な競争力が低下してきている状況もあります。そして相変わらず日本の社会では周囲に合わせ突出を恐れる傾向が残っているし、残念ながら突出した者をバッシングしたりすることも見られます。
更に広い範囲に目を向けると地球温暖化などの環境問題があるし、昨日からのニュースで報道されているように戦争という国家による暴力もまだまだ無くなる様子がありません。
私達は数多くの深刻な自体に直面しているのです。
そうした中では、出来ることも限られ、思い通りにならないことも多いと思います。その意味では今の世もまた「面白きこともなき世」と言えるのかもしれません。
そして今日、皆さんは学園を卒業して新たな世界に旅立っていくわけですが、そこはたぶん学園よりは制約があって、やらなければならないことも多いのではないかと思います。

そんな中ではいろいろと大変なこともあるかもしれません。でも皆さんが学園で身につけた力をもとに、自分が何をしたいのかを心の中心に問い、自分自身で考え、選択し、自分自身を生きる姿勢を貫いて、これからもぜひ「面白く」生きていってほしいと思います。
そのことを心からお願いして式辞とさせていただきます。