ビリヤード台のこと
高校のビリヤード台
生野学園には高校と中学のそれぞれにビリヤード台があります。
いずれも購入したものではなく生徒たちと作ったものです。今回はその経緯についてお話してみようと思います。
高校のビリヤード台
はじめに作ったのは高校の方で、もう20年以上前のことです。
当時3年生だった11期生の何人かがビリヤードに興味を持っていて数回連れて行ったことがありました。しかし、一番近いビリヤード場でも場所は姫路なので片道1時間はかかり、しょっちゅう行ける距離ではありません。そうなると当然出てくるのは「学園にビリヤード台を買って欲しい」という声です。
ただ調べてみると中古でもかなりの金額だし、重量も相当あり設置はプロの業者にたのまなければならず、購入は諦めざるを得ませんでした。
そこで思いつきで「作ってみないか?」と提案したところ二つ返事で「やるやる」とノッてきたのでした。

提案はしたものの見通しがあったわけではありません。
彼らが望んでいたのは市販されている小さな玩具のようなものではなく、本物と同じような大きさのもので、しかもポケットというタイプの台でした。
ビリヤードには大きく分けてキャロムとポケットの2種類があります。キャロムは自分の打った球を他の2つの球に当てるゲームで台の構造はシンプルです。これに対しポケットは台に6つの穴があって球をそこに落としていくタイプなので構造が複雑になるのです。ビリヤード場に置いてある台はポケットに落ちた球がレールにのって一箇所に集まる仕組みになったいるのですが、流石にそこまで作るのは諦めてポケットの下の袋に球をためておくタイプにすることになりました。(実際には袋のかわりに近くのホームセンターで見つけた1個100円のザルを使っています)それでも一体どうやって作ったらいいのか、目処はたっていませんでした。

こんな状態でスタートしたのですが、幸い当時、週に一回木工を教えに来てくれていた寺内さんという講師の方がおられました。寺内さんもビリヤード台は全く初めてのことでしたが、家具を制作されてきた経験から台の構造や、使用する木材のアドバイスをもらい、更には木材も提供していただきました。おかげで木で制作する部分には目処が立ち、生徒たちと木材の加工を始めることができたのです。

困ったのは「クッション」の部分でした。
ビリヤード台の枠にはクッションというゴムが貼り付けてあり、クッションに当たった球はさほど減速することもなく跳ね返って来ます。このクッションの反射を利用することでプレーの幅が飛躍的に広がります。ですからクッションに当たった球がしっかりと反射してこないと面白みは半減してしまうのです。
クッションの素材をどうするか? これにはだいぶ試行錯誤しました。
ホームセンターでいろいろな種類のゴムを少しづつ買ってきて、実際に球を当てて確かめてみるのですが、なかなか思ったように跳ね返ってくれません。そんな中で最終的には「まだましかな?」と思えたウレタンゴムのテープを貼り付けることにしました。ただやはり本物には程遠く、球の勢いは落ちるし、その分つよく当てると抑えが効かず外に飛び出してしまうこともありました。

制作を始めたのは1学期でしたが、上述のクッションゴムの問題や木材の加工ミスなどもあって進行は遅れに遅れ、ようやく台の上部が完成したのは11期生の卒業間際で、脚の部分は全く手つかずの状態でした。
それでも「卒業までに一度は使いたい」ということで脚の部分は折りたたみテーブルで代用し、とりあえず理科室に設置し、なんとか卒業式前日には遊ぶことが出来たのです。
ようやく使えるようになり楽しく遊んでいた生徒たちの表情が今も懐かしく思い出されます。

制作した11期生たちが卒業した後、台はそのまま理科室に残され、中途半端な状態ではありましたが、それなりに下級生たちに遊んでもらえていました。
その後、中学の開校とともに自分は中学に移り、その2年目に中学にもビリヤード台を作ることになります。
実は高校での制作後もクッションゴムのことがずっと気にかかかっていて、ネットであれこれ調べるうちに、本物の台の補修用品としてクッションゴムを販売しているお店を見つけたのです。
「本物のクッションゴムが手に入る」ということが制作への大きな動機づけになり、今回は
自分の方から生徒たちを誘って(けしかけて?)制作することになったのです。

大まかな構造は前回と同じです。枠の木も寺内さんに提供してもらいました。
ただ難しかったのはクッションゴムに被せる布の固定方法でした。
クッションゴムはむき出しのままではなく、台に被せてあるのと同じラシャという布を被せて使うのですが、それをどうやって固定したらいいのかが分からなかったのです。
そこで本物がどうやっているのかを調べると、枠の木に細い溝を切ってそこに埋め込む方法が取られていました。しかし、この方法で固定するためには枠の硬い木に長い溝を正確に掘らなければなりません。これは技術的にはかなり難しいのです。
素人ではとても無理なので、この加工は寺内さんにお願いすることにしました。寺内さんの工房にお邪魔して、専門的な工具を使い正確な溝を切ってもらいました。その結果、無事に布を固定できたのです。
脚の部分は木で作るのは難しいので、ちょっとズルをしてコンクリートブロックを使用することにしました。ブロックは規格品なので積み重ねるだけで水平の台が出来るのです。

こうして出来た台を使ってみると、やはり本物のクッションゴムはぜんぜん違います。
形状や硬さなど本当によく考えられています。たぶん長い歴史の中で改良を重ね、今の形にたどり着いたのではないでしょうか?
高校生には申し訳ないけど、ずっと良い台が出来上がりました。

そのため中学でビリヤードを覚えた生徒が高校に上がると、高校の台にはだいぶ不満を感じていたようです。数年後、特にビリヤードが好きだった生徒が「高校の台もなんとかしたい」という思いから、木工技術に長けたスタッフの西本さんに相談して改良に乗り出したのです。

すでにボロボロになっていたウレタンゴムを剥がし、本物のクッションゴムに張替え、ラシャも溝を切ってしっかり固定してくれました。折りたたみ机でグラグラしていた脚も木製のしっかりした脚に変えてもらいました。
こうして高校のビリヤード台もようやく「完成」したのです。

以前、欧米の大学にはよくビリヤード台が置かれれいるという話を聞いたことがあります。
学生たちの社交の場になるだけでなく、知的な面でも球の衝突角度、回転、クッションへの入射角と反射角・・など科学的な思考を鍛える側面があるからだと説明されていました。
その真偽はともかく、正確に球を打つ運動能力や手先の器用さなども含め、ビリヤードがとても奥深いものであることは間違いないと思います。

2台のビリヤード台が少しでも子どもたちの役に立ってくれれば幸いです。
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