中学の「活動」について
-- 本気で関わるということ --
生野学園中学校では開校以来、木曜日に「活動」という名前の授業を行っています。これは一日、または半日かけて教科の枠にとらわれない様々な活動をするものです。内容は、ものづくり、料理、川遊び、山登り、ハイキング、焚き火、社会見学、映画鑑賞・・と多岐にわたります。子どもたちからの人気も高く、一週間の中でこの授業を楽しみにしている子もかなりいるようです。
今月はこの授業を始めたきっかけとそれに込めた思いについてお話してみようと思います。

2001年のことですが、翌年の中学校開校にむけて「どんな学校をつくろうか」と思いを巡らせる中で、いろいろと参考にさせていただいたのが和歌山県の「きのくに子どもの村学園」でした。学園長の堀さんには、以前に生野学園で講演をしていただいたことがあり、とてもおもしろい学校だなと思っていたので、お願いして見学させていただくことになりました。
現地では堀さんに直接ご案内いただき、たくさんのお話を伺うことが出来ました。その中で最も興味深かったのが「プロジェクト」という丸一日かけて行う体験活動です。これはきのくにのカリキュラムの中心をなす重要なもので、テーマによっていくつかのグループに分かれており、演劇に取り組むグループ、「工務店」といって建築作業やものづくりに取り組むグループ、自然観察や体験をするグループなどがあるとのことでした。
細切れの授業ではなく丸一日、たっぷり時間をかけることで本当に意味のある貴重な体験が出来るという堀さんのお話に共感し「これはぜひ生野学園でも取り入れよう」と思ったのが「活動」を始めるきっかけです。
始めるにあたり、そのまま「プロジェクト」という名前を使わせてもらうのは気が引けたので、なにか気の利いた名前はないかと開校当初のスタッフで考えてみたのですがなかなか妙案は出てきません。そこで「良い名前を思いつくまではとりあえず『活動』と呼んでおこうか」ということになりました。ところがその後も妙案は出ず、そのまま定着してしまったのが「活動」という名前の由来です。

きのくにの「プロジェクト」はテーマごとにグループに別れ継続していく活動ですが、開校当初の生野学園中学校は人数も少なく、「活動」とは別に以前お話した「石窯づくり」を継続していく事になったので、木曜日に行う「活動」のほうは一回ごとに内容を変えて全員ですることになりました。
当初は生徒とスタッフがミーティングを行い子どもたちの意見を聞きながら「活動」で何をするかをその都度決めていました。これはなるべく子どもたちの自主的な「やりたい」という気持ちを大切にしようと思ったからです。しかしまだまだ経験の少ない子どもたちに多くのアイデアを求めることは無謀だったのでしょう。回を重ねるにしたがって、子どもたちから意見が出にくくなってきたのです。
そこで考えを改め「活動」の内容についてはスタッフから提案することにしました。大人として子どもたちに様々な体験をしてもらう機会をつくり、子どもたちが自分たちの世界を広げていくきっかけにしてもらおうと考えたのです。
ただこれには「一方的な押し付け」になってしまい、子どもたちに「やらされた」という気持ちを惹き起してしまう危険もありました。それを避けるにはいったいどうしたらいいのか? いろいろ考えるなかで、まずは「大人も本気でやるべきだ」という結論に至りました。
「本気」というのは生野学園の創始者である森下先生がよく言われることです。大人たちが本気で関われば、それは必ず子どもたちに伝わり、子どもたちの心を動かしていくと語られています。逆に手を抜いたり、適当に誤魔化したりすれば、子どもたちはそれをすぐに見抜き大人の誘いかけには乗ってこないのです。
そのため、まず活動の内容を考えるときは、安易な道は取らず出来合いのものを利用することはなるべく避けるように心がけました。たとえば何かを作る場合であれば本気で自分たちで方法を考え、できる限り一から自分たちの手で作るようにしたのです。
料理で言えば、カレーはスパイスから調合する、餃子は皮から手作りする、うどんやパスタを手打ちしてみる、出汁を取るときに鰹節を削る事から始めてみる、焚き火で調理する場合はまず山から倒木を持ってきてノコギリと斧で薪を作ることから始めるといった具合です。
こうしたことの多くはスタッフにとっても初めて経験することでしたから、とうぜん失敗することも多くありました。でもなぜうまく行かなかったのかを本気で考え、やり方を変えて再挑戦するといった試行錯誤にはとても大きな意味があったと思います。(この辺のことは以前「失敗と試行錯誤の大切さ」でお話したことがあります。)
また、「川遊び」や「山登り」などの体を動かす活動ではスタッフ自身も思いっきり楽しむことを心がけました。大人が夢中になって楽しんでいる姿を見せることで、子どもたちの中に「自分もやってみたい」という気持ちが生まれるのではないかと思ったからです。

このように、あらかじめ決められたことを教えるのではなく、スタッフ自身も本気でいろいろ考え、試行錯誤し、しかもそれを夢中になって楽しむことで子どもたちの興味や関心を惹き起し、子どもたちと一緒に様々な発見をし、その感動を分かち合うのが「活動」のめざすもの、理想とするところなのです。
もちろんいつもそんなに上手くいくわけではなく、内容がつまらなかったり、難しすぎたり、キツすぎたりすることはしょっちゅうです。その都度反省するのですが、でも目標だけはいつもしっかり意識しておくべきだと思っています。

実は7年ほど前に自分が高校との兼任になってから、中学の「活動」に関わる機会がめっきり減ってしまいました。たまに参加してもそれはスタッフの人数が足りないときの「助っ人」としての関わり程度になっていたのです。そんな状況を反省して今年の4月には「今年度こそはもう少し中学の『活動』に関わろう」と思っていたのです。しかし実際に新年度がスタートすると木曜日に出張が入ったり、他にやらなければならないことがあって参加できない状況が続いてしまいました。ところが2学期の終わりになって、ようやくいろいろな用事が一段落し、先日「活動で」電子工作をすることが出来たのです。自分が中心で「活動」をするのは実に久しぶりのことで、本当に楽しい時間を過ごさせてもらいました。
作ったのは「暗くなると自動的に点灯するLED」というシンプルなものすが、少し自慢話をさせていただくと、これは出来合いのキットではなく、自分なりに「本気」で開発したものなのです。直接は以前オープンスクールで使用するために作ったのですが、回路の構想、試作実験、プリント基板の設計など全部を自分でやりました。(基盤の制作だけは業者に依頼しています)
市販のキットを使っても結果は変わらないのかもしれませんが、なぜこういう回路にしたのか、なぜこの部品をつかったのか、それぞれの部品ががどのように機能しているのかをしっかりと説明できるし、もし子どもたちが作成に失敗してもその原因がすぐに分かるのです。そして何よりも自分自身に思い入れがあるので、自然と子どもたちにもその思いが伝わるのではないでしょうか。

久しぶりに活動に参加して、改めてその意味、大切さを感じたことが今回、この文章を書いてみるきっかけになりました。今後も機会をみつけて様々な活動に参加していくつもりです。
そして大切なことを教えてくれた堀さんに改めて感謝したいと思います。
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